過去にあった、障害をもつ人による暴力。
障害をもつ人が自分や他人を傷つけてしまうのは、なぜだと思いますか?
「まったく理解できない」
「やりたいことができないから」
ただそう思う人が多いでしょう。
しかし、手を出してしまう理由の一番は、「本人が困っているから」です。
ここで、くわしく「強度行動障害」とはなにか、どうして起こるのか、さらに対処法を見ていきましょう。
強度行動障害とは
健全な育て方をしていても、自傷・他傷行為が治らず、まわりの人がずっと困っている状況のとき、「強度行動障害」といいます。
強度行動障害は医学的な診断名ではなく、その行動から判断される概念につけられます。
強度行動障害の多くには、物、食事や睡眠への非常に強いこだわりがあり、自閉症の特性の「強いこだわり」が関係しているのではないかと指摘されています。
たしかに、強度行動障害は、重度・最重度の知的障害をともなった自閉症のかたによく見られる障害です。
強度行動障害の判定基準
厚生労働省による「強度行動障害の評価基準に関する調査について」では、つぎのような11項目が掲示されています。
11項目が、月に1回、週に1回、毎日あるか頻度によってポイント数を決め、10点以上なら「強度行動障害」だと診断されます。
①頭部が変形するほど殴る、つめをはぐなど、ひどい自傷。
②噛みつき、蹴り、殴り、頭突き。髪を引っ張ったりして相手がケガしかねない行為。
③強く指示しても、服を脱いだり、外出を拒んだりするなど、激しいこだわり。
④ガラス、ドア、家具、茶わんやイスなどをこわし、危害が本人にもまわりにも大きいもの。
⑤昼夜逆転など睡眠の乱れ。
ベッドにいることができず、自傷・他傷行為をする。
⑥テーブルごとひっくり返す、食器を投げる。
椅子に座って皆と一緒に食べられない。
または、便や釘・石などを食べる拒食や、特定のものしか食べない偏食など。
⑦便を投げたり、壁面になすりつける。
また、排便排尿をしなければいけないと脅迫的に感じ、排尿排便をくり返すなど。
⑧身体や命の危険がある飛び出しをする。
目を離すと少しも座れず、走り回る。ベランダなど高いところに上るなど、激しい多動。
⑨たえられないような大声を出す。一度泣き始めると何時間も止まらないなど。
⑩パニックが出ると、体力的におさめられず、つきあいきれない状態になる。
⑪日常生活のちょっとしたことを注意すると、爆発的に怒り出すなど、かかわった人が恐怖を感じること。
強度行動障害はなぜ起こる?
それでは、なぜ、重度の知的障害・自閉症の人に強度行動障害が多いのでしょうか。
わからないことが積み重なる
目に見えるもの、音、におい、触れる、生活は多くの情報で満たされています。
健常者は必要のない刺激、必要のある刺激を分けて生活できますね。
必要のある情報がわかるから、「ここで何をすればいいのか」もわかります。
人が話しているなら、声や表情に反応して、人の話を聞く。
重度の知的障害・自閉症の人は、刺激にたいして、どのように反応すればいいのかわからなかったり、感覚過敏で、すべての刺激に反応してしまい、混乱することがあります。
「地図なしに知らない町に連れてこられて、一人さまよう」ような感覚ですね。
そうした「わからない」ことの不安が積み重なって爆発した結果、自分や他人を傷つけてしまいます。
伝えられないことの不満
さらに、重度の知的障害・自閉症のかたは、その「わからない」不安を、上手に伝えることができません。
なにか不満があっても上手に言葉にできず、不安や不満が蓄積されていきます。
そして、なにかのきっかけで、強度行動障害としてあらわれます。
大切なのは、「やりたいことができないから」周囲を困らせているわけではなく、本人が「どうしようもなく困っている!」というサインだということ。
このことを間違えず、支援していかなければいけません。
強度行動障害はどのように対処をするのか
わからない不安や不満を取り除くこと、本人や他者を守ることが大事です。
①環境を整える
わからない不安をなくすために、イラストをつかったりして、「ここでなにをするのか」を構造化して混乱をふせぎます。
また、関わる人たちも、少しでも、いつもとちがう行動をしないよう、一貫した対応を心がけます。
こだわりであったり、いつもとちがう行動が理解できず、混乱を招きかねないからです。
そのほか、リラックスできる場所をつくり、ストレスをへらす工夫も大切です。
②福祉と医療を連携して
医療の面では薬物治療が有効です。
重度の知的障害・自閉症の方は、てんかんや睡眠障害を患っていることが少なくありません。
抗てんかん薬をつかった結果、強度行動障害が軽減された例もあります。
また、精神科への入院治療も大きな役割があります。
①障害の精神科治療
②ひどい自傷・他傷から家族や本人を守る
③破綻した生活をリセットして、支援の体制を整える
暴力や異常なこだわりによって、家族がケガ、疲弊して支援まで手が回らなくなることが。
そんなとき、入院をさせることで、家族が療養できます。
さらに、そのあいだ、福祉機関のサポートにより、重度の知的障害・自閉症のかたに合わせた環境を整えることができます。
強度行動障害には、医療も福祉も欠かせません。ふたつを連携して支援しましょう。
③緊急時の対応を決めておく
本当にひどい自傷・他傷が急に起こることがあります。
失明したり、鼓膜を破ったり、または相手を骨折させるほどのパニックです。
そういった緊急のとき、すぐに対応しないと、大きな事故になるおそれがあります。
家族と支援者とのあいだで、予想される緊急事態と、その対応について十分に話し合っておきましょう。
まとめ
強度行動障害は、わからない不安、伝えられない不満がつもった結果です。
やりたいことができない不満を暴力によってぶつけているわけではなく、本人が「どうしようもできないぐらいに困っている!」ことを訴えています。
そんな強度行動障害への対処や支援は大きく3つです。
①環境を整える
②医療と連携して
③緊急時の対応を決めておく
不安や不満をへらし、本人や家族、他者を守られるようにしましょう。