自閉症の方の特徴は人によって様々ですが、コミュニケーションが苦手であったり、視覚的に物事を捉えるのが得意なことは多くの方が当てはまると思います。
大切なのは、それを「障害」として捉えるか「異なった文化」として捉えるかです。
外国の方が日本に来られた時、なんとかお互いに合わせようと慣れない英語や日本語、身振り手振りをして相手に寄り添いますよね。
今回の記事はそれと同じ概念を持った療育プログラム「TEACCH」についての価値観や具体的な支援方法を説明していきます。
TEACCHは家庭や日常生活でも取り入れることができますので、自閉症の方の支援について知りたい方に参考になると思います。
自閉症の療育「TEACCH」プログラムとは
TEACCHプログラムとは、アメリカのノースカロライナ州立大学で基盤ができた自閉症児とその家族や支援者を包括的に支援するプログラムのことです。
プログラムの目的は自閉症の人が学習や余暇活動、就労などの社会生活の中で自立して有意義に暮らし、
一般の人と共存・共生を目指すことであり、今日ではアメリカをはじめ世界中から注目されています。
TEACCHプログラムの基本原理
TEACCHプログラムには一貫した理念があります。
1 自閉症の障害の本質は中枢神経系を含む器質的な問題でありそれらが自閉症の人々が見る世界や状況の見通しに混乱や影響を及ぼしているということ。
2 療育は両親(家族)と専門家が親密な協力関係で実施すること。
3 療育者はスペシャリストを超えてジェネラリストであること。
4 療育プログラムは包括的に調整されなければいけないこと。
5 人生全般にわたって支援されなければならないこと
6 療育はあくまでも個別化の概念のもとに行われること。
この理念は自閉症の特性である強いこだわりや視覚的に物事を捉えること、コミュニケーションの困難さを障害ではなく文化として捉え、
自閉症の人々を世界観の捉え方が一般の人と異なる異文化の人々として接するというTEACCHプログラムの価値観から来ています。
そして無理に世間の常識に合わせるというより、周囲が自閉症の特性を理解し許容した上で社会に適応できるように支援していくという基本原理で成り立っています。
TEACCHプログラムのコミュニケーション支援・構造化の特徴
特性を理解したコミュニケーション支援
TEACCHプログラムには自閉症の人のコミュニケーションで重要視する7つがあります。
- 要求 ジュースと言ったり冷蔵庫を指さしたり何が欲しいかという要求の表現。
- 注意喚起 大声を上げたり、呼びかけたり、自分に注意や関心を向けること。
- 拒否 「いや」と言ったり、相手を押しのけたり、あるいは自分の頭を叩いたり手の甲を噛んだりなど拒絶やそれに対する不安の表現。
- 説明 自分自身や相手、特定の物などを見せたり指をさして教えたり言葉で解説すること。
- 情報提供 相手が知りたがっている質問などに対して答えることや相手の知らないであろうことを説明すること。
- 情報請求 自分が必要としていることや知りたいことを要求する意思表示の事。
- その他の感情や共感の表現 気分の良し悪しや好き嫌いといった身体的な感想を言うことや頭を下げて挨拶するなどの日常的な動作のこと。
これらの評価基準をもとに、日常的によく表現する意思などを絵カードで表し誰でも分かるようにすることや、
お菓子やジュースが欲しい時はお皿やコップを差し出すなどの実用物を使用などのコミュニケーションが誰とでもとりやすいシステムを導入しています。
構造化
意味・概念・表象・認知などにおいて一般の人と捉え方が違う自閉症の人は、部屋や道具などの意味や種類を理解するのが難しく、しっかりとした役割を理解するために環境を整える必要があります。
その環境を整えることをそれを「構造化」と呼びます。
一般的に言われる障害のある人の合理的配慮と意味合いは非常に似ていて、合理的配慮のベースになっています。
これは言葉や文字よりも視覚的に物事を捉えることが得意な自閉症の特性を活かしたもので、4つに分類することができます。
物理的構造化
部屋の内部を家具、つい立て、カーテン等で仕切り視覚的刺激をなくすことで、それぞれの活動と場所が1対1になるようにして各場所や場面を視覚的に理解しやすくすること。
スケジュール化
その日一日の活動をスケジュールボードなどにイラストや文字を使って表現し、必ず活動を前もって予告し見通しを示すことで不安や恐怖を解消し、スムーズに進行できるようにすること。
ワークシステム化
課題や作業の手順を視覚的にルーティン化し、終わったら次に何をするかを明確にして取り組むシステムを作ること。
視覚的構造化
写真やイラスト、色分けなどをして視覚的に物事が把握しやすいようにすること。
これらの構造化により集中して活動や日々の生活が出来るようになりこの構造化には様々なアイデアがあり学校や就労施設を始め多くの場所に取り入れられていて自宅でも取り入れることができるものもあります。
構造化において重要なのは個々で必要な構造化が違うので個人の能力や特性に応じて行うことや成長に合わせて変化させることです。
・部屋のスペースを区切って役割を分ける
・常にこれからの見通しが分かるようにスケジュールボードを活用
・活動を同じ流れにする
・写真や絵カードや色分けなど、目で見てわかるようにする
まとめ
TEACCHプログラムは自閉症の特性を理解した上で世間が自閉症の人々に寄り添うという理念の基で、
自閉症を能力的に劣っていることや障害だということの概念を取り払い、異文化を持った健常者として接することでお互いを尊重し、共存していくことを目的に作られています。
このプログラムの構造化などは放課後等デイサービスや障害者就労施設などで広く取り入れられています。
多くの人がこういった原理を基に社会を作ることができれば、自閉症の人々が社会の中で地域に根付いた自立生活ができ、それが出来た時にはじめて自閉症が障害ではなく個性として受け入れられるようになるかと思います。